グルコサミンの寿命延伸効果研究計画案がアメリカ老化研究所(NIA)のInterventions Testing Program(ITP)に採択されました。

下川 功 (SAGL, LLC)、林田隆広(Hayashida Financial Management)

老化を遅延し、健康寿命を延伸する物質の研究は、基礎老化研究の重要な課題です。NIA-ITPは、マウスの寿命や健康寿命を延伸する物質を同定するために、外部の研究者から計画案を毎年公募しています。申請者は、計画案が採択されると、共同研究者として、ITPの研究に関わります。試験は、交雑マウスを用いて、アメリカの3か所の施設(ジャクソン研究所、ミシガン大学、テキサス大学サンアントニオ校)において行われます。2000年初頭から、すでに約40種類の化合物、薬剤、ホルモンの寿命研究が終了しています。有意な寿命延伸効果がみとめられた薬剤としてラパマイシン(Rapamycin)があります。この試験結果に基づいて、老化遅延、寿命延伸メカニズムの研究が一気に進みました。以前注目されたレスベラトロールやクルクミン、緑茶の抽出物などは有意な寿命延伸効果は見られませんでした(1)。

林田隆広先生(Hayashida Financial Management代表、合同会社SAGLの資金援助者)は申請代表者として、今年2月に、グルコサミンの寿命延伸効果に関する研究案をNIA-ITPに提出しました。SAGLの下川功博士も共同申請者として、この提案に加わりました。幸運なことに、このプロジェクトが採択され、予備実験がアメリカで始まろうとしています。アメリカ国内外の2つのグループから提案があったようで、我々を含めた3つのグループの共同研究となります。

グルコサミンは、日本でも関節疾患の症状の緩和に効くサプリメントとして出回っています。関節疾患への効果は懐疑的ですが、10年ほど前から、グルコサミンを服用している関節疾患の患者の寿命が対照群より長い可能性を示唆する臨床疫学的報告がヨーロッパやアメリカで散見されるようになりました(2~4)。少数ながら線虫やマウスでも寿命延伸効果を示唆するデータが報告されています(5、6)。しかし、このようなデータは、研究の規模や方法が限定的です。我々は、NIA-ITPのプロジェクトとして、マウスの寿命延伸におけるグルコサミンの効果とその適切な投与量と投与期間を検討することを提案しました。

グルコサミンは、解糖系の阻害、オートファジーの誘導などとともに、腸内細菌叢に作用し、抗炎症作用を示す可能性が示唆されています。NIA-ITPのマウス寿命研究によって、有意な効果が検証されれば、老化制御に関する基礎研究がさらに進むと予測されます。

*注意点:このNewsはグルコサミンをサプリメントとして服用することを推奨しているわけではありません。ヒトの老化や寿命に対する効果は、基礎研究とともに臨床研究がさらに必要です。

引用/文献

1. https://www.nia.nih.gov/research/dab/interventions-testing-program-itp/supported-interventions

2. Bell GA, Kantor ED, Lampe JW, Shen DD, White E. Use of glucosamine and chondroitin in relation to mortality. Eur J Epidemiol. 2012;27(8):593-603.

3. Li ZH, Gao X, Chung VC, Zhong WF, Fu Q, Lv YB, et al. Associations of regular glucosamine use with all-cause and cause-specific mortality: a large prospective cohort study. Ann Rheum Dis. 2020;79(6):829-36.

4. King DE, Xiang J. Glucosamine/chondroitin and mortality in a US NHANES cohort. J Am Board Fam Med. 2020;33(6):842-7.

5. Shintani T, Kosuge Y, Ashida H. Glucosamine extends the lifespan of Caenorhabditis elegans via autophagy induction. J Appl Glycosci (1999). 2018;65(3):37-43.

6. Weimer S, Priebs J, Kuhlow D, Groth M, Priebe S, Mansfeld J, et al. D-Glucosamine supplementation extends life span of nematodes and of ageing mice. Nat Commun. 2014;5:3563.